東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2535号 判決
ところで、分筆前の七三〇番の土地がもと控訴人村越の所有していたものであること、被控訴人が本件係争地を時効取得した後に、分筆前の七三〇番の土地について控訴人伊藤のために所有権持分一〇分の一の移転登記がされ、また、分筆前の七三〇番一の土地について控訴人伊藤のために控訴人村越の所有権持分一〇分の九の移転登記がなされていることは当事者間に争いがない。そして、≪証拠≫によれば、控訴人伊藤は、昭和五七年五月一一日頃、控訴人村越との間において、分筆前の七三〇番の土地のうちの一〇分の一を代金一、〇〇〇万円で買い受ける契約を締結し、右土地について所有権持分一〇分の一の移転登記を受けた後、右買受けにかかる土地を分筆前の七三〇番一の土地に特定する旨の合意をし、分筆前の七三〇番一の土地については控訴人伊藤のために控訴人村越の所有権持分一〇分の九の移転登記を、七三〇番二の土地については控訴人村越のために控訴人伊藤の所有権持分一〇分の一の移転登記をそれぞれ経由したものであることが認められる。
しかしながら、≪証拠≫によれば、先に説示したとおり本件係争地付近の公図によれば本件係争地が分筆前の七三〇番の土地の一部とされていることを控訴人村越から知らされた被控訴人は、昭和五七年三月頃以降、かえって右公図こそが誤りであるとして控訴人村越に対して公図の訂正手続をとることを求めたが、控訴人村越は、本件係争地の時価による売買又は代替地の提供を求めるなどして、協議が整わなかったこと、そこで、被控訴人は、同年五月一四日本件係争地が被控訴人の所有に属することの確認を求めて控訴人伊藤を相手方として千葉簡易裁判所に調停の申立てをし、他方、控訴人村越も、本件係争地の占有回収の訴を提起する旨を予告する右同日付の書面を被控訴人に送付するなどして、本件紛議が発生するに至ったこと、この間、控訴人村越は、本件紛議について姉の夫である控訴人伊藤に相談を持ちかけていたが、同年五月初め頃、控訴人伊藤において分筆前の七三〇番の土地のうち本件係争地を含む一部の土地を買い受けることにすることとして、本件売買契約が締結されたものであることを認めることができるのであって、これら事実によれば、控訴人伊藤は、被控訴人が本件係争地について所有権を主張していることを熟知し、それがやがては争訟に発展するであろうことが十分予想される状況の下において、敢えて本件係争地を含む土地を買い受けることとして本件売買契約を締結したのであって、控訴人村越と控訴人伊藤とが前記のような身分関係にあることを併せ考慮すれば、本件売買契約は、到底正常な取引ということはできないのであって、真実その意思がないのに控訴人らが通謀してこれを仮想したものであるとはいわないまでも、専ら被控訴人が本件係争地について時効取得を主張するのを封じる意図をもってされたものであることは明らかである。
そして、以上のような事実関係の下においては、控訴人伊藤は、いわゆる背信的悪意者に当たるものとして、被控訴人の登記の欠缺を主張することは信義則上許されないものと解するのが相当であり、したがって、被控訴人は、本件係争地の取得時効完成後に右土地を買い受けて所有権移転登記を経由した控訴人伊藤に対して、本件係争地の時効取得をもって対抗することができるものというべきである。
(西山 越山 村上)